駅のホームで

今日の帰り道、エスカレーターをただひたすらゆっくりと登っている人がいた。
…逆方向に。

だからもちろんその人は一ミリも登っちゃいない。ただひたすら同じ位置で階段をひたすら踏んでいる。それを二分近く上から見ていた僕も僕だがその人もその人だ。何してるんだろう。だが、すれ違って横顔をみると、別に酔っ払っているようではない。
「その階段、どこにも着きませんよ」
擦れ違い、通り過ぎ、僕は彼女の後ろから呼びかけた。返事はなかった。
「せめて、もっと急いで登らないと」
やはり返事はない。僕は諦めて立ち去ることにした。見えなくなる前、もう一度振り向くが、ただひたすらにゆっくり、ゆっくり、彼女はエスカレータを登り続けていた。
…逆方向に。

なぜだかかなしくなった。つい十五分前の話である。