異常行動を考える。

道行く人に片っ端から怒鳴りかけ、罵り、唾を吐きかけながら道をよたよた歩くおっさんがいた。
きちがいであると思った。

暇だったので尾行した。しばらく観察して、おっさんは振り向かないということが判明したための安心尾行である。

どうも、言ってることから推するに、道を人が目的を持って歩いていることが気にくわないらしい。たぶん、目的がほしい人なのだろう。持っていないものを持っている人が妬ましく、また不愉快なのだろう。
面白半分で尾行を始めたのが、すこしすまないような気分になってきた。このおっさんは興味深い存在などではない。ただの、「自分に耐えきれなかったおっさん」だ。それはどこにでもいる。誰の中にもある。
ただ、このおっさんは、大声が恥ずかしくないから罵り歩くだけだ。頭の中身がだだ漏れでも恥ずかしくないから罵り歩くだけなのだ。

歩行者用の信号が点滅した。ちっかちかする信号を見上げ、おっさんは小走りに横断歩道を渡った。
正常な判断力だった。社会だとか一般人だとかを罵りはしても、小さなルールは守ってしまう。そうでなければ、車のように「勝てない相手」にはぶつかってゆかない。
いずれにせよおっさんはそれ以上観察する価値のないものであった。
僕はおっさんの後ろをつけて歩くのをやめた。