生きるの、つらいよ。

Pくんは、いわゆる親がかりの職歴なしニートでメンヘラで雀荘狂いで自称善意のクレーマー。
はっきり言ってダメ人間の国士無双だけどだけど、古くからの大事な友人です。

そんなPくんと先日電話で話しました。
「久しぶり、お前今仕事なにやってんの」と聞かれ、会社勤めしてるよ、と返事した瞬間、即座に「俺サラリーマンとか絶対ムリだわ、あんな生き方するくらいだったらむしろ死ぬ」と開口一番フルスロットルで突っ込んでくるバカですが、不思議と腹は立ちませんでした。
この、腹が立たないことについて、僕は少し悩んだのです。

自分の心が麻痺しているような気になるのです。本当に彼と対等の立場にあれば、失礼なこと抜かすなおどれなんぼのもんじゃい、と一喝するのが自然のように思うのです。
昔からこいつ考えの足りないやつだしな、だとか、仕事について言い返したら死んじゃいそうだしな、とか、そういった予断が僕の怒りゲージを素通りさせたのです。
いつのまにか、僕らの間には壁のようなものができてしまったのかなあ、などと思うと、がっつんがっつん言葉で殴り合うのも一つの誠実さだよなあ、などとも思うのです。
立場や、持っているものの多寡が、不誠実にハンディキャップをつけるのです。

今日、人と人が別離するところを見ました。
ただ見たのではなく、それに手を貸しました。
忘れるべきでないことを、見届けました。
ただ見届けたのではなく、それに手を貸したのです。
それが彼らに、彼女らに、本当に必要だったのかもわからないまま。
わたしは。

帰り道。なんとなくPくんのことを思い出しました。こんな風に、へんな思い出し方をしてしまって、あいつ死んでねえかな、と不安になって電話しました。
挨拶よりも名乗るよりも早く、開口一番、とにかくなんか罵ってよ、と頼むと即座に「この俗物め」とPくんは言いました。
けっこう。それって実にけっこうなことだよ。僕には君の大事にしてるものが見えるよ。君が何をおそれているのか、きちんと見えるよ。ぜんぜんわかんないけど、君のことをわかったような気になれるんだよ。本当は、ぜんぜんわかんないんだけど。それでも。

「いま、変な風に君のことを思い出して、まさか死んだりしてないかって心配になって電話をかけたんだ。でも生きてるみたいで安心したよ」
「なんだお前、どうした」
「どうもしないよ、どうもしない。なにもなかったし、なにもなくなったんだ」

そして電話を切って、僕は僕を愛し、僕を待ってくれている人のもとへ帰る。雨の中を、ゆっくりと歩いて帰るんです。

生きるのって時々つらい。