第9地区

こりゃまた、一言で申し上げて、すげえ映画でした。
感じとしてはスターシップトゥルーパーズに近いアレな感じがあります。
大分話題になりましたのでもうご存知の方も多いとは思いますが、粗筋はというと、20年前、ヨハネスブルグに不時着した宇宙船があります。不時着というか、上空200mくらいのところに浮きっぱなしではありますがとにかく機能停止して久しい宇宙船です。
で、この宇宙船に乗っていたのがエビ型のエイリアン。超高性能の武器を持っているんだけども猫缶との物々交換でバンバン放出してしまうなど、知能は高いんだか低いんだか良く判りません。
でもって、ヨハネスブルグという現代の北斗の拳の国に出来た「エイリアン居住区」という名のウルトラスラム。スラムの中のスラムでのお話。20年の間に増えたエイリアンをもっと僻地の、過酷な土地に強制移住させようというところからお話は始まります。
内容は、まあ、見てもらえば開始五分で判ると思うんですが、かなりプラクティカルなアパルトヘイトネイティブアメリカン弾圧の戯画化です。スターシップトゥルーパーズは(尻尾と爪こそむき出していたものの)ポーズとして、もしくはよりメッセージ性を鮮明にするために「何も考えてない娯楽映画」の皮を被っていたのに対して、こちらはかなり遠慮なくメッセージを前面に出していますので、そこは好みの分かれるところかもしれません。

しかしまあ、どいつもこいつも登場人物はベクトルの違う最低方向につきぬけ、逆におまえすがすがしいよというような方々ばかりでしたので、「心温まるお話」を求めているとエライ目に遭うかもしれません。一緒に鑑賞したうちの人は「なんかETみたいの」という僕の説明を真に受けてしまったため、途中でフラフラになってました。
僕はといえば、途中でのショッカーから逃げ出す仮面ライダー的なシーンから俄然面白くなってしまい、かなりアッパーな感じで鑑賞しておりました。ナイジェリア人ギャングが主人公をさらって食べようとするシーン(二度目)のあまりの無法者ぶりと頭の悪さで完全に面白くなってしまい、この人たちバカだ、と騒ぎながらみていたらうちの人に叱られました。でも、こう、あのナタを振り上げた黒人の嬉しそうな顔といったらないですよ。メイキング映像の肉屋の黒人の、「こうやって切るんだ、こうだ、こう、オラ、こうやって」と鉈でガッツガッツ牛肉をぶったたく笑顔に通じる狂気があります。割と本気で叫んじゃったもんね。「あぶない、あぶないよ、バカ、危ないって!親指が!おまえ!」
ともあれ、ストーリーとしては重厚というよりは、割とシンプルで、なんていえばいいんでしょう。「世界はこんなに素晴らしい」という言葉の重みというようなものについて思う映画でした。困難な時代に生まれたサッチモがwhat a wonderfull worldと歌った重みに似ているというか。なんというか。
この土地に生まれたエイリアンは「この世界は素晴らしい」と本当に言えるんだろうか。エイリアンの見る「この世界」と僕の見る「この世界」は確かに違うのだけれど、同じであるべきなんですね。もちろん誰の見る世界だってです。僕らは世界に対して、均しくちっぽけであるべきなんだ。と思う。

しかし、エイリアンの武器は着弾から破壊までにワビサビというものがまったくなくて面白いですね。「発射、ぱちゅん、はい次」みたいな。弾道とかエフェクトとか、そういうワビサビ的なものの一切排除。エイリアンテクノロジーウェポン。当たった相手は粉微塵になって死ぬ。的な。さすがエビ。