旧い人に会う

「ほうき星とわたしは、忘れた頃にやってくるんだよ」
そういって旧い人が僕の脇腹を小突いたのは午後のことだ。遅い昼食のため、デパートの裏通りを歩いている時だった。
振り向こうとして逆の脇腹をつつかれる。あう、と情けない声を漏らす僕をみて旧い人は、からからと笑った。

一段高いところに上がってこちらを見下ろす旧い人は、太陽を背中にしている。表情はよく見えなかったが、体つきが少しほっそりしたようにも見えた。

髪、切りましたね。
心を込めないで指摘すると、旧い人は中空に頬杖をつくようなポーズをとった。
「もう何年も会ってないくせに、よく言うよ」
「そうでしたっけか」
本当は確か、転職したての頃に一度会ったはずだった。

「まあ、いいや」
旧い人はなんだか機嫌がよいらしい。
「今日はね、きみに贈り物をしにきたんだ」
「ほんとですか」
「ああ、贈り物だから、お祝いということになるね」

片足で跳ねるような仕草。
旧い人のシルエットは相変わらずの逆光の中、つやつやと動いた。
「お祝いというものはね」
旧い人は急に僕の目の前に飛び降りる。
「何もないところにこそ宿るのだよ」
間近で、口元を隠す旧い人の袖からは、さっぱりした果物のような、不思議な香りがした。
「わたしは、きみに、きみの知らないことを知らせることが大好きなんだ」
旧い人は僕のベルトのあたりをそっとつついた。

「じゃあ、また、近いうちにな」
旧い人はニンマリと笑って消えた。