『夜の蝉』

北村薫/創元推理文庫

先日の『冬のオペラ』に続いて読んでみました。
以前北村薫についてA女史が「割と好きなんだけど、女子が普通の場面でいきなりボクとか言い出すのはいかがかと思う」などと言っていたのですが、なるほど、ボク娘発見。宝塚娘発見。確かにちょっとだけ浮いてる気もします。

聞く所によると本作は、作者が素顔とか公開したきっかけだとかなんとか。しかもシリーズものの二作目だとか。
まあそのようなことを何一つ知らずに読んだわけですが、面白かったです。推理の部分では特に最初の書店の怪がよかったように思います。犯人探しとは違う形の推理。深刻でなく、かといって軽薄でもないバランス感覚は僕、好きかも。
物語としてはやはり表題作の「夜の蝉」がじんわりよかったです。姉妹の確執というか、情愛というか。ちょっと胸に迫るものなどもありました。
細かいことを言うと、各所でちょっとづつ「男の書いた女一人称」が気にかかる気もしましたが、それさえくぐり抜ければ物語の空気はとてもここちよく落ち着いています。主人公が落語好き女子ってのも、あざとくていい(逆に)。

そうそう、探偵役がお洒落な落語家なんですが、僕は落語家といえば春風亭小朝の顔しか浮かばない人なので時折物語の場面がいきなり火サスに脳内変換されたりして愉快でした。

ともあれ、なかなかによい小説でしたので興味あらばぜひ。