転がる猫に苔は生えない

(ブルース・E・カプラン/鈴木彩織訳/ソニーマガジンズ
いやあ、先日吉祥寺に遊びに行った折になんだかで本屋に立ち寄って、高野文子の黄色い本の元になった黄色い本(『チボー家のジャック』)が出ましたかそうですかふうん、などと言いつつ、立ち読みしておりまして、黄色い表紙繋がりで見つけたのがこの本。
ソニーくさい小洒落た表紙がなんともアレだったんですが、中身を読んで割と普通に面白がってしまいました。薄いし、文字は少ないし、その割に高いし、なんちゅーかバンカラ読書マニアにはオススメしませんが、それでも面白いんです。
内容は、見開きでひとりの猫が独白する掌編と、イラストレーターだという作者の挿絵が一枚。それを50匹分集めた本であります。
で、何が面白いって、これ、作者が猫にインタビューしたとかなんとか前口上がついているんですが、そのあたりはどうでもよくて、ともかく猫の語り口。これに尽きます。
基本的に、猫が友達や自分のことを語る形式なんだけども、中にはろくでもないやつがいたり、ラブコメしてるやつがいたり、ハードボイルドがいたりマジでよくわからないやつがいたり、まあその、緩急のつけ方の楽しいこと楽しいこと。
そんなに興味のない話、それほど共感できない話、そこまで好きになれない話、そういうのを織り交ぜらて構成されるとなんとなく楽しくなってしまうのは、僕だけでしょうか。なんか何冊も読んでるような気持ちになれるんですよね。

ミルトンの話と、ピーチズの話、それからフランソワの話が僕は一番好きでした。好きというか、気になるというか。ともあれ立ち読みで何気なく開いたところがフランソワのページで、それでなんとなく買っちゃった感じの本であります。
初対面から数日あけて衝動買いしちゃったわけですが、本棚に置いておきたい欲求は刺激される感じの本ではありますよ。
問題点があるとすれば、猫の絵が可愛らしくないことくらい。でも、この内容で挿絵が萌え猫画像だったら多分僕は買わなかったので、これでよかったんだろうとは思いますけど。

総評として、これ、「本棚に置く本は、頭からお尻までぜんぶ私の好きな話が入ってる本じゃなきゃいやっ!」という人以外にはオススメできると思います。
それと、何度か読んで気付いたんですが、すべての掌編において話題に上るのが他の猫のことばかりで、犬とかネズミとか人間なんかとの関係が一度たりとも語られなかったのが、いかにも猫っぽくもあり、逆に人間くさくもあるなあ、などと思いました。

ちなみに原題はThe Cat that Changed My Life 50cats Talk Candidly About How They Became Who They Areだそうです。中身はシンプルなのに、題名長すぎ。あと邦題と関係なさすぎ。