興奮!僕、探偵になれるかも!素質あるかも!

表題どおり。
今日、葬儀社の人とちょっとお話する機会がありました(もちろん仕事で、ですが割とフランクな話もできた)ので、前から気になっていたことをたずねてみました。
何って、怪談によくある「そのときお線香の香りがどこからともなくぷうん、とにおってきたのでありました」というアレです。僕、実はアレについて以前からひとつ立てていた仮説があったのです。一応下調べはして裏づけはしていたんですが、実際現場の人からの意見を聞いてみようと思いまして。
その仮説というのは、線香の香料として使われているピレトリンの問題なのです。菊の一種から採れるこのピレトリン、実はお線香以外でも意外なところでも使われているのですね。たとえば除虫剤なんかにも使われているんです。でもってさらに、ちょっと特殊な用途で使う消毒液なんかにも使われているんです。
これに気づいたのはかれこれ何年前でしょうか。実は親戚で検死官をしている人がおりまして、彼女とご飯を食べている時にやっぱり、ふ、とお線香の香りがしたことがあったんです。それは彼女の仕事明けの日のことだったので、やっぱり検死の後にはお線香あげたりしてるんだなあ、と思ったのでありました。
でも、そのことを彼女に尋ねると、そうではないそうなのです。いや、なんというか、もちろんお線香をあげたりはするんですけどその日はお線香に触ってないそうなのです。というか、検死を一件済ませてそのままこちらへやってきたとのこと。かれこれ数時間前にはなるけれどお風呂にも入ったし手も洗ったとのこと。
一瞬、ぞうっとしたんですが、僕も、もともとの情緒なしです。なんだか好奇心のようなものが湧いてきて、ちょっと色々におわせてもらったんです。そしたらなんと、そのお線香のにおいというのは彼女の手からしてきたんですね。で、なんだろうと二人して考えたんですが、どうもそのにおい、消毒液のにおいらしいんです。
でもっていろいろと薬品類のラベルをもらったりなんたり、後日調べてお線香との共通点としてピレトリンに行き当たったんですが、そのピレトリン。けっこう香料つよいみたいなんです。お風呂に入っても手を洗っても、そこはかとなく香る。香るって言っていいものかどうか悩みますがともかくにおうんです。どうも油をつけると一発で消えてしまうんですが雨風には相当強いみたい。

これを踏まえて仮説。
もしかしたら、人が死んだ後に葬儀社の人が使う品目の中に、ピレトリンが含まれているものはないか。具体的には遺体を清める際のあの消毒薬、あれってピレトリン含まれていうんじゃないかと思ったんです。そして、それがたとえば何かの拍子にこぼれてしまったりした場合、結構長期にわたって「お線香のにおい」を発したりしてるんじゃないか、とか。なんとか。
でもって今日それ、思い切って聞いてみたんです。そしたらやっぱり!ビンゴでした!業界で使われているどの消毒液にもピレトリンって入ってるらしいです。だから事故現場とかでもけっこう使われることがあるとか。なんとか。
僕がたどり着いた仮説、これ、けっこう葬儀業界の中では有名な話らしいです。自力でたどり着いた僕に乾杯!ヤホー。
それで面白かったのが、この「お線香ぷうん」という怪談のディテールは戦後、はじめて生まれたものみたいなんです。それまではそういうディテールを持つ怪談、なかったのだとか。というかそもそもこのピレトリンが使われ始めたのは戦後のことで、それまではお線香の香り、ちょっと違うものだったとのこと。どちらかというともっと刺激の強い、ハーブ系のにおいだったそうです。ハーブというかヨモギというか。
こちらは目からウロコでした。すげえ。すげえ事実を知ってしまった。僕らが知ってる「昔ながらのもの」って案外最近になってできてるんですね。「肉じゃが」が江戸時代には存在しなかったこととかは割と有名ですが、お線香までとは。ね。意外でしょ。

まあしかし今日一番嬉しかったのは、「すごいですね、ピレトリンなんて普通の人は知らないですよ」つってほめられたことです。ほめられたというか驚かれたというか。そしてさらに「実はちょっと興味があって調べてたんです」って返事して「あなたいったい何者ですか(笑)」という一連の夢のような会話ができたことです。おお。おおお。小説に出てくる探偵みたいだ僕!やったね!

知識とは無用の長物であればあるほど美しい。たまりません。いやあ今日ほど自己満足に浸れた日はちょっとありませんね。というわけで覚書。トリビア
「人が死んだ場所で後日、突然ふっと香るお線香のにおいは、消毒液のにおいである」