怪異の気配

山手線が止まり、慌ただしい東京を離れ、北へ向かう電車である。

電車が駅を離れ、高架を走っているさなか、不意に警笛を鳴らしたのである。その警笛は、まるで怯えているようにも聞こえた。警笛は繰り返される。何度も、何度も、何度も。悲鳴のように、懇願のように。
そして不意に警笛は鳴り止む。電車は何事もなく進む。急ブレーキもない。逆に不安になるような静寂。線路の継ぎ目を踏む、ごとっごとっ、という音。風を切るびうびういう音。

しばらくして僕は気付く。今、運転士はいったい何に対して警笛を鳴らしたのだろう?
ここは高架の真ん中、先の駅はいまだ先だ。前の駅だってすでに遠い。

そこには一体何が?

次の駅、電車は長い間停まっていた。アナウンスが流れた。運行上の都合により少々停止します。なるほど。

しかし前から二両目に乗っていた僕は、真っ青な顔をした運転士が出てくるのを見た。運転士が交代するようだった。もうしばらくして、発車する旨のアナウンス。彼は青い顔のままホームの柱にもたれかかり、走り出す列車を眺めている。青ざめた、怯えた表情。
これは、「運行上の都合」なんかではない。何か、もっと別のものだ。

ホームは遠ざかってゆく。運転士が遠くなってゆく。
彼は一体なにを見たのか?高架線路に、一体なにがいたのだろうか?