「あなたは、キスするといつもお酒の味がするのね」と、顔を離した彼女は頬杖をついて僕を見つめるのであった。

time after time。全ては連続する流れの中。time before time。
僕らはとにかく時間の中に生きている。今はただ混乱の中にあり、そして心ゆっくりと殺し、平常の中に埋没してみようとするが叶わずただ時間だけは過ぎる。勘の鋭い人が、目敏く僕を見つけて耳打ちした。「わからないことはわからなくていいんですよ」。
僕は酒場の天井を見上げる。息があぶくのように上ってゆくのが見える。まるでドームになっている、音の抜けないフレスコ画
「平静のふりをしても、それは、本当は、平静ではないんですよ」
でも、案外できてしまうものなんだ。かなしいとさえ思わない。僕は微かに抗弁する。返事はない。僕は水の中で繰り返す。自分で選んでしまっていたんだ。やはり僕は、また、やっぱり解ってしまっていたんだ。人を見透かすのはこの上ない悪癖だ。しかしそれが僕の本性ならば平静にしなきゃいけないんだ。
音楽が聞こえない。音楽はどこだ。
音が僕を癒すはずだ。くまなく包み、人間の体温に似た音楽だけが僕を、音楽が、音楽はどこだ。一体音楽はどこへ行ってしまったんだ。どこへ行ってしまったんですか。

ああ、僕は明日からちゃんと一人きりになります。きちんと、完全な意味でひとりになります。混乱する世界を再びまとめあわせ、もう一度星図を書くのです。得体の知れないものに流されるのではなく、生きることそれ自体を、一度音で揃え、仕切りなおす時が来たのです。

sound after life。音と人生。日々新しく生まれ、やがてそれぞれ、脱ぎ捨てて生きる。life after life。
愛しい人々よ、しばしさようなら。

次回の更新は月末頃の予定です。このはてダのみ、携帯からちょこちょこ更新します。
それでは。