旧い人と久々に会う

oberon2010-07-05

旧い人と久々に会った。
久しぶりですねと声をかけると、旧い人は不機嫌そうな様子になった。
「ずいぶん勝手なやつだな」
どうしたんです。
「昨日も、一昨日も、その前もずっとここから呼んでたのに、気づかなかっただろ」
それはすいません。

僕が素直に謝ると、旧い人は幾分機嫌を直したようだった。
「まあ、そう簡単に気付かれてもコケンに関わるからな、気にするなよ」
はあ。そういうものですか。
「そうそう、ものは相談なんだが、便利なものを欲しくはないかい?」
なんです、急に。
「嘘を見破れる目だとか、
人を睨み殺せる目だとか、そうだな、もう何も見逃さないようになる目だとか」

微笑む旧い人の声が少し冷たくなった。
目の話ばっかりですね、と答えると旧い人は不意にげらげらと笑いだす。
「そうか、君は、そうか」
なんですか、怖い声出したり笑ったり。
「いやね、君の目があんまり羨ましいから、ひとつ取り替えて貰おうかと思ったんだが、そうか、忘れていたよ」
僕の目玉は簡単に取ったり付けたりできないほうのやつですよ。
「そんなのは知ってるよ。そうじゃなくて、君のは、あはは、そうだ」

心底愉快そうに笑って旧い人は続ける。
「先約があったんだな、その目玉」

勿論身に覚えのないことだ。返事できないでいると、旧い人は僕の頬を両手で挟んだ。
「しかし、よその奴にくれてやるのは惜しいな」
息がかかるほど顔を近づけ、旧い人はまた冷たい声を出した。
また会おう、という声と、柔らかい掌の感触だけが残った。