詐欺師語る

「君たちを騙すのは本当に簡単だよ」
そう彼は言った。
「君たちは、自分の信じたいものしか信じない。それは、逆にいえば、信じたいことはどんなに出来の悪い嘘だって信じるってことさ」
彼の細い指が、火のついていない煙草を弄んでいた。
「いいかい、わたしの生まれた国ではね、たくさんの人間が捕まって殺されたんだ。本当にでっち上げが多かった。警察もあまり有能ではなかったし、そもそも、政府にとって都合の悪い人間が多かったんだな。でも、無実の人ほど惨たらしい公開処刑で殺されたんだよ。わたしの先生が、そうしたほうがいいと言ったからさ」
ふうっと息を吐く音。
「何故だと思うね」
「なにが、ですか」
「わたしの先生が、そんなことを勧めた理由さ」
僕は黙った。

公開処刑を見ている人たちはね、信じたいんだよ。自分の住んでいる国が、無実の人をこんな風に残酷に殺す国家であってほしくない、とね。だから、こう信じるんだ。『こんな酷い目に遭う人は、酷い目に遭うだけのことをしでかしたに違いない』『人をこんな目に遭わせるんだから、警察はさぞ綿密な捜査をしたに違いない』『だから、あそこで苦痛にまみれて死んでゆくあいつは、真犯人に違いない』、ってね」
彼の目は、僕を見ている。僕だけを見ている。
「わたしの先生が、ただ単純にサディストや性格破綻者だった、という答えならいいのにな、って思ったろ」
僕は返事出来なかった。
「君の虚構はまだまだやり口が甘いんだよ」
彼はとうとう煙草に火をつけた。
「今度、わたしの先生に会ってみるかい?」