第五号レビュー。

とりあえず、そういうわけで掲載順に。

『桃と猫』(漫画/あきうせい)
桃と猫の話です。なんつって言うとそのままなんだけども、桃と猫の話。相変わらず空気感が絶妙でした。なんというか、道端に桃売りがいるのに、それが異様でない、という状況がそもそも。軽トラックとかがそばにあるならともかく、神社か何かの境内で、荷物も少ない桃売りって、普通に描かれてしまうとなんとなく気味の悪いものになりかねないと思うんだけども、それが見事に自然なものとして描かれてます。というか、よく考えるとこれって難しい芸当だよなあ、と気付いたのが何度か読み返した後だというのが一番すごいことかもしれません。「桃太郎よりはましだ、の台詞の挿入の仕方も自然。
あと、男キャラを入れると話が進まない、と昨日こぼされてましたが、あきうせいさんの漫画に限らず、物語に出てくる猫はたいがい男キャラなんだよなあ、ということに気付いたりしました。チェシャ猫しかり、ジジしかり、ペローしかり、バロンしかり。女猫というのは物語には出にくいものなのかしら。
『走る』(小説/ヲベロン)
やりきれない女子中学生が募金をする話。自作についてあまり言うことはすくなくて、というか下でやたら言い訳書いててもはやアレなのだけれど、一つ前に書いた『ロックの神様』という作品が絵で言うところのデッサンで、枠組みばかり重視して彩色が疎かになったような感じなのに対して、今回は色ばかり塗った感がありました。むしろ主線を消しかねない勢いで、塗って、塗って、塗りたくった感じです。そういう意味では、読後感の善し悪しはともかくとして、作品中の空気はずうっと統一されていたという表現もできると思います。
ただ、キーワードについては指摘されたとおり、消化不良の感がありますし、今までの僕の書いてきたものとなんか路線が変わった、という意見もそのとおりだと思います。色々と実験作っぽい。
『そういう、発端』(小説/多津丘〆葉)
こちらは○○の話、と書いてしまうとネタバレになってしまう、そういう話です。昨日も言ったのですが、続き物感というかこの話の続きがある感じが今回はしませんでした。結末を見る限り「次回に続く!」みたいなヒキは作られているのだけれど(未完で終わっているというわけではなくて)、読みきりなんだろうな、という感じがするというかなんというか。それがなぜかとか考えてみると、もしかしたら物語の本編的なもの、つまり、この短編で言えばこの先の展開の中に当然登場する筈の要素、すなわち「北村加夜の敵」の存在がまったく描かれていなかったという点にあるのかもしれません。それについて一片でも描写されると、途端に「続きものの第一回」感が出てくるものなのかも。それがよいか悪いかは別として。
本人曰くの、台詞のために組み立てた話、というのもそれに作用しているかもしれません。
『2052年のモモタロウ』(小説/鈴虫)
ハードボイルドの話。というか、昨日も話したのですが、時間軸を順列に並べてない連作短編の中の一編、として読みましたゆえ、そのつもりでの視点です。こちらは逆に本編がないのが本編、という形態だと思いました。外周や断片を描くことによって、なんとなくの輪郭を作られている感じ。ゆえに、もう少し説明不足でも良かった気がします。少し用語解説なんかが多かった感じ。この話だけを読む分にはむしろ親切なのかも知れませんので、一般的な評価の基準にすると間違えてるかも知れませんが、ともあれ。

今回は奇しくも、どの作品も作者の「他の作品」に関連するものが多かったように思いました。「他のを知ってるとより楽しめる」と、「他のを知らないとあまり楽しめない」のバランスってすごく難しいんだなあ、というようなことを考えたりしました。
色々と勉強になったような!