『ひとりぼっちのエルフ』(シルヴァーナ・デ・マーリ/荒瀬ゆみこ訳/早川書房/1800円)

というわけで随分まえに読了していたのだけれど、ネタバレにならない範囲で詳しく感想など。

世界は、エルフが弾圧され、東の果ての荒れ果てた土地、エルフ居住区へ追いやられている世界。雨がしとしと降り続き、エルフ居住区は今やぬかるみの底。生まれたばかりのヨーシュクルンスクワァルクルヨルネルストリンクは祖母に見送られて居住区の外へ出る。人間をまだ見たことのない彼は、飢え、冷え切ってそれでもぬかるみのなかを歩いている。今晩の命の存続さえあやうい宵、彼は最低の疲労と絶望の中、うまれて初めて人間と出会うのであった…。

へたくそですが、アオリでいうとそのような感じ。
というか、あらすじについてはほぼネタバレになってしまうので避けますが、丁寧な物語だったと思います。まさに王道オブ児童文学。…と言いたいところですが今の児童文学の王道を僕よく知らないのでごめんなさい。でも硬派でクールな物語ではなく、どちらかというとウェットな囁きのような物語でした。こういったテーマのものには珍しく、あからさまな風刺もなく、まさに物語がここにあります、という感じ。
ここで特筆すべきはそのディテール。ディテールです。
僕はつねづね、幼い男の子というものはめそめそしているくらいで丁度いい、という信念に基づいて暮らしているのですが、わかってますよ作者。作者はあざといくらいにわかってます。冒頭から主人公のヨーシュクルンスクワァルクルヨルネルストリンクはハンパなくめそめそしていて、同行の人間が一言いうたびに泣き叫び、悲嘆にくれて立ち止まってばかりなのですね。犬が来たといっては泣き叫び、人間が生きものを食ったといっては泣き叫び、飯がないといっては泣き叫び、おこられたといっては泣き叫び、食われるんじゃないかと思っては泣き叫び、まあ、ともかくこんなにめそめそした人物をかつて見たことないな、と思わせるに充分なめそめそっぷりなのです。
これホントすごい。
この悲嘆にくれるかわいらしくもいじましいエルフを見るためだけにでも、買いだと言っていいんじゃないでしょうか。そして、彼の旅を見てあげてください。なんか、こう、読まないときに本を、なるべく暖かいところにおいてあげたいような気になる、フシギな本でありました。

あとはまったくもって小道具が素敵過ぎます。特にウェディングドレスな。ウェディングドレス。

上記画像はオマケ。好きなように解釈してください。