思い立ち九州。(3)

タクシーに乗った。なるべく悲壮に見えないように(実際悲壮ではないし)、あてのない旅だと思われないように、快活に告げた。
「熊本城、やってください!」
運転手は話好きで、土地のなまりが面白かった。どうやら今、ちょうど熊本城ではお祭りがやっているらしい。来年はよんひゃくねんさいだけんね、と運転手は言った。来年もまた来るつもりなんです、お城好きなんです、と少しお世辞を言うと、ひどくうれしそうな顔になった。
走れども走れども着かないタクシーに心配になり、どのくらいかかりますかと問うと、もう十五分くらいだという。お金の話だとも言いにくく、結構遠いんですねと告げるにとどめた。この人からわたしはどんな風に見えているんだろう。考えて少しおかしくなる。