溺れる。

時折、溺れる。上ばかり向いているせいだ。
そこは空、概ね雲、踏み歩いていたはずで、水なんかなかったはずなのに、いつのまにか溺れて水まみれになって、水滴らせて、したたか水飲んで呆然とするのだ。なんてこった、空か?海か?どちらも青く、時に灰色だから間違えてしまったのだろうか!
ともあれどこだ?ここ?
しばしば僕は溺れ、新しく生まれ、一度この世におさらばし、あるいは漂着し、記憶を頼りに世界地図を、もいっぺん作り直す。星図は…大丈夫だ。それだけは空に浮かんだまま、いつだって星は死んだりしない。見上げればいつだって思い出せる。

このところ上の空で記憶がゆるいような気がする。星の群れを追う季節はいつもそうだ。
うっかり人の家の屋根を踏んだり、飛行船の腹に背中をぶつけたりしてしまう。こりゃ失敬、なんていって謝ると肩に乗せた猫のやつがじっとりと横目で見るんである。
あなたのその言葉遣い、かなりヘンよ。
…うるさいな。
もうすぐ日食があるらしい。そういえば太陽も星のひとつだ、なんて不意に気がついた。
夢の世界がばらばらになってゆく。夢を見ながらそれが夢であることを知覚するのである。ここはどこだ。空か、海か、ビニールシートで作られたプールか、発光ダイオードか。
電車の中にありながら、またもや溺れそうになる。如何様でも夢だ、死ななきゃいいや、構うものかと思えども、吐く息があぶくになって空へ昇ってゆくのを眺めるのはいつまでも慣れない。
やはり海だった。