『球場ラヴァーズ』石田敦子/ヤングキングコミックス

良書、良書、良書。
とても面白い漫画です。
すでにヲベロン太の選ぶ今年のベスト漫画にすでにノミネートしました。(ちなみに2010年度の大賞は脳内審査委員長のゴリ押しで恋忍が受賞)
さて。
あえて誤解されるように端折ると『球場ラヴァーズ』の粗筋は、いじめられっぱなしの女子が広島ファンになってゆく、というストーリー。

そもそも僕は抑圧されて硬直している主人公が、ガチ復讐したりあるいは敵を赦したりする話が好物なんですが、「それだけじゃない」話が本当に好きなんです。
物語の数だけ乗り越えるやり方はあって、解決したりしなかったり、そもそも乗り越えなかったりもするわけですが、それこそが人間のありようだと思うんです。
そしてこの物語は、確かに自分の世界に相対し、目を背けない人々のお話。

世に、いわゆる××漫画と呼ばれるジャンルがありますね。相撲漫画、寿司漫画、書道漫画、風呂漫画、などなど。
それらは一歩間違えると、十把一絡げにジャンルに飲み込まれて個性をなくしたり、逆に題材が異常な個性を発揮してしまうがゆえに題材に振り回されてしまう危険性をはらんでいます。

しかしこの漫画には、しっかりとした主人公達の生活が芯にあります。
たしかに「広島カープ漫画」という括りには入ると思いますが、けっして広島好きや野球好きでなければ楽しめないような間口の狭い漫画ではありません。

むしろ僕、どちらかというと野球に興味ある方じゃないのに引き込まれました。もしかしたら野球素人だからこそ引き込まれたのかもしれませんが、とにかく漫画として面白いんです。
三人の主人公は、それぞれちょうど十歳づつくらい違い、それぞれに少し困難な状況に直面しています。
彼らの生活の中心は確かに球場の外なんです。
彼女らは球場で何度も出会い、観戦を生活に組み込んでいますが、決して球場に逃げ込んだりしていません。
時折、現実から目を背けて趣味や偶像に逃げ込む人を見ますが、彼女らはきちんと現実を中心に据えて、そして野球を、広島を愛しているんです。

ヤングキングコミックスより現在3巻まで刊行中ですが、一気買いして損のない漫画です。よかったら是非。
三巻は昨日発売になったばかりなので、既刊も手に入れやすくなってるんじゃないかしら。